<?xml version="1.0" encoding="utf-8" ?><rdf:RDF xmlns:rdf="http://www.w3.org/1999/02/22-rdf-syntax-ns#" xmlns="http://purl.org/rss/1.0/" 
			xmlns:dc="http://purl.org/dc/elements/1.1/" xmlns:content="http://purl.org/rss/1.0/modules/content/" 
			xmlns:cc="http://web.resource.org/cc/" xml:lang="ja">
<channel rdf:about="http://qran.blog8.fc2.com/?xml">
<title>月下永人</title>
<link>http://qran.blog8.fc2.com/</link>
<description>「月下永人ーゲッカエイジン」を挙げていくブログ。読者の純粋な感想が恐くもあり、しかし、共有されることによって、生き生きと、あなたの不可視の世界で彼らがしゃべりますように。</description>
<dc:language>ja</dc:language>
<items>
<rdf:Seq>
<rdf:li rdf:resource="http://qran.blog8.fc2.com/blog-entry-202.html" />
<rdf:li rdf:resource="http://qran.blog8.fc2.com/blog-entry-201.html" />
<rdf:li rdf:resource="http://qran.blog8.fc2.com/blog-entry-200.html" />
<rdf:li rdf:resource="http://qran.blog8.fc2.com/blog-entry-199.html" />
<rdf:li rdf:resource="http://qran.blog8.fc2.com/blog-entry-198.html" />
</rdf:Seq>
</items>
</channel>
<item rdf:about="http://qran.blog8.fc2.com/blog-entry-202.html">
<link>http://qran.blog8.fc2.com/blog-entry-202.html</link>
<title>月下永人　１９８　初詣</title>
<description> 一月、一日。雪が十センチほど、積もっていた。白い息が出る。境内は、同じような初詣の人間でごったがえしていた。鈴璃はいつものグレーのコートに、先日のサザンパークの年末売りつくしセールで買った新しい茶色のブーツをはいていて、境内の一番大きな松の下でみんなが来るのを、待っていた。おみくじのまえに行列ができている。甘酒のイイ匂いがふわりとした。「よう！探したぜ！」ききなれた声がして、鈴璃はふりかえった。「
 </description>
<content:encoded>
<![CDATA[ 一月、一日。雪が十センチほど、積もっていた。<br />白い息が出る。<br />境内は、同じような初詣の人間でごったがえしていた。<br />鈴璃はいつものグレーのコートに、先日のサザンパークの年末売りつくしセールで買った新しい茶色のブーツをはいていて、境内の一番大きな松の下でみんなが来るのを、待っていた。<br />おみくじのまえに行列ができている。<br />甘酒のイイ匂いがふわりとした。<br />「よう！探したぜ！」<br />ききなれた声がして、鈴璃はふりかえった。<br />「どういうことだよ。誰もきやしねー。」<br />いつものダークメイクの哀の顔があった。<br />スタッズのたくさんついた、ライダースジャケットに、赤いミニスカート。足元は、太ももまであるニーハイブーツだ。<br />はたから見たら、少し寒そうに見える。<br />鈴璃は一週間ぶりにみたその顔を、みてどこかほっとした。<br />そこで、哀の発言にあれ？と思う。<br />時計をたしかめた。<br />お父さんが買ってくれた赤いＧショックは午前十時四十五分をさしている。<br />「え？集合、十一時でしょ？まだ十五分前。」<br />哀の眉間に皺がよる。<br />「は？十時かと思ってた。」<br />哀はなんだよ、といった風な顔をした。<br />鈴璃はクスクス笑う。<br />「で、なんで十時四十五分にくるの？」<br />「寝坊した。」<br />なんてことはない、普通な会話が営まれている。<br />「羽のばせた？」<br />鈴璃がにっこりと笑う。<br />「ああ。学期終わりに、学校で会ったのが最後だっけ？」<br />「そう。一週間以上ぶりっっていうのが、なんだか新鮮だね。」<br />照日ノ君のありがたいお計らいで、年末は戦姫の奉公もなく、家庭でおだやかに過ごすことができた。<br />こたつで蜜柑を食べ、宿題をのらりくらりとし、つまらない年末特集のテレビ番組を見る。<br />そんな、あたりまえの生活をした。<br />世界はほんの少しだけ、平和な方向へ向かっているのかもしれない。<br />「でも、もう次の予定、はいってるだろ？」<br />「うん。新年会でしょ？佳澄さんから連絡あったわね。１月・・・いつだっけ？確か、始業式の前夜だった気がする。」<br />「せっかくののらくら冬休みも終わりかぁ・・・。」<br />哀があたりをみまわす。<br />「そうだね・・・。でも陽族の年はじめの行事が、新年会でよかったよ。」<br />「いつ出動がかかるかわかんねーぞ。ミミックには、正月なんて、関係ないだろうからよ。」<br />ふたりはクスリと笑いあった。<br />「ねえ、何か変わったことあった？」<br />鈴璃は普通の友達みたいに哀にきいた。<br />哀はちらりとこちらを見る。<br />「んー。特には。」<br />哀はしばらく考える。<br />「そういえば、クリスマスイヴの日、花宴だったでしょ？」<br />鈴璃は思い出して、哀にきいた。<br />言ってから、小さな後悔をする。せっかくの日常会話を自分から壊してどうする。<br />もっと、陽族以外のことを話せばいいのに、と鈴璃は自分でも思った。<br />「おう。そうだったな。なんか、難しい話をきいた。」<br />哀は特になにも感じなかったらしい。<br />「難しい？」<br />鈴璃は意外な返答に首をかしげる。<br />酒の肴に難しい話とは、どういうことだろうか。<br />しかも、哀に対して、だ。<br />「ソラなんちゃらって衛星がどうのこうの・・・。それで照日ノ君が、未来妃のことを心配してくれて・・・」<br />「未来妃？」<br />鈴璃はまた意外な登場人物に驚いて、声をあげた。<br />哀は一通り、照日ノ君と花宴で話したことを鈴璃に話してくれる。<br />「未来妃が、あの日、怪我をしたんじゃなくて、陰族に襲われたっていうの？」<br />鈴璃は不安げな声をあげる。<br />「あー。じゃないか？って話してたんだ。だけど・・・。」<br />哀は煮え切らない返事をする。<br />「・・・でも、未来妃は足を滑らせて、転んだからだって」<br />鈴璃がすかさずつっこんだ。<br />「それを、波埼先生が助けたんでしょ？」<br />部屋に再び現れた津田佳澄は確かにそう言ったことを思い出す。<br />「そう。だから、そんなわけねーってゆっといた。」<br />哀も困ったような顔をする。<br />「・・・。」<br />鈴璃はなんだか、胸元がソワソワした。<br />あの修学旅行から、もう一ヶ月は経っただろうか。<br />突然また未来妃が行方不明になったような、不安に襲われた。<br />「あ。」<br />丁度そんな時に、未来妃がこちらにやってくるのが見えた。<br />二人に気がつくと、小走りで、走ってくる。<br />「ごめーん、待った？」<br />未来妃は珍しく、黒髪をポニーテールに結び、黒いノーカラーのロングコートに、紺色のタイツをあわせている。<br />首元には、いつものブルーのチェックマフラーがあった。<br />「いいや。まだ周馬たちもきてねえ」<br />「よかった。哀がはやいなんて、珍しいわね。」<br />「哀は、時間を間違えたんだよ。」<br />鈴璃が苦笑いする。<br />「馬鹿ね。」<br />未来妃がクスクス笑う。<br />「二人とも元気だった？」<br />「ああ。」<br />「うん。」<br />鈴璃は話しながら、チラチラと未来妃の首筋を見る。<br />「あ、そうだきいて！二人に報告があるの、わたしクリスマスにね・・・」<br />未来妃がぱっと顔を輝かせた。<br />彼女の首には、例のブルーのチェックマフラーがしっかりと巻いてあるので、傷口は見えない。<br />鈴璃は哀のほうを見る。<br />哀も気になっているようだった。<br />「・・・何？どうかした？」<br />未来妃はすぐに二人の様子を察知する。<br />眉間に皺をよせて、話すのを止めた。<br />哀と鈴璃は顔を見合わせた。<br />しばらくの沈黙が訪れる。<br />全員が、誰かの発言を待つような、そんな空気が流れているみたいだった。<br />そのままでは拉致があかないので、鈴璃は意を決する。<br />「未来妃、あの・・・首もういいの？」<br />鈴璃は唐突にきいた。<br />やはり、きいておくべきである。<br />「え？」<br />未来妃は目を丸くした。<br />「何、どうしたの、急に？・・・大丈夫よ。まだ病院にはいってるけど・・・。」<br />未来妃はぱっとマフラーの上から首を触る。<br />「そのね・・・」<br />鈴璃はなんと質問していいか困り果てた。<br />未来妃は二人の思惑など、全くわからないだろうと思ったからだ。<br />まさか「ミミックに血を吸われたのではないか？」などと質問できるわけがない。<br />哀がポリポリと気まずそうに、後ろ頭をかく。<br />「・・・おまえ、怪我したときのこと、覚えてる？」<br />哀は最大限あたりさわりのないような質問をした。<br />未来妃は急にびくりと顔を強張らせた。<br />鈴璃は哀の質問をうまいと思いながら、様子を見守った。<br />「・・・どうして、そんなこと聞くの？」<br />どこか鋭さをもって、未来妃は二人を見返した。<br />その表情に、不快の色がうかがえる。<br />相手は、未来妃だ。<br />問答に置いて、そう簡単にこちらだけ得たい情報を得るのは難しかった。<br />「いや、ただきいてなかったな、と思って。」<br />哀が目をふいっと半回転させた。そのしぐさで、その理由が嘘であることがバレバレだ。<br />「そう・・・。」<br />未来妃は目を細める。<br />その様子は何かを頭の中で、考えているみたいだった。<br />「ちゃんと覚えてるわ・・・。」<br />二人は静かに未来妃の返答を待った。<br />「わたし、しばらく、雪の中を、さ迷っていた。」<br />「・・・。」<br />「どれくらい時間が経ったのかはわからない。でもね、波埼先生が助けにきてくれたの。」<br />鈴璃は吹雪きの中、未来妃と波埼が出会う場面を想像する。<br />波埼がドラマの俳優のように、喜ぶ姿が思い浮かんで、どこか鈴璃は気持ちわるいと思った。<br />「しばらく、山小屋にいたんだけど、ほら、小さい雪崩あったでしょ？」<br />「うん。」<br />未来妃はあの日、別の近くの山であった雪崩のことを言っている。<br />その雪崩には、スキーにいていた別の外国人観光客が巻き込まれ、全員が、未だ行方不明中である。<br />「あの音がきこえて、慌てて、逃げる時に、足をふみはずしてね。」<br />哀も黙って未来妃の話をきいていた。<br />鈴璃は、足場の悪い雪道を、波埼と未来妃が走る姿を想像してみる。<br />あたりには、明かりはなかっただろう。<br />あったとすれば、波埼が持って出た懐中電灯くらいだろうか。<br />真っ暗な中、二人は地鳴りから逃げるようにして、必死に走ったのだろう。<br />そうしたら、後ろをついて走っていた未来妃がうっかり足をすべらせて・・・<br />未来妃の悲鳴で振り返る波埼の姿を想像した。<br />「それで、崖下に転げ落ちて、倒木に首をグッサリとね。」<br />佳澄からきいた話と相違ない。<br />やはり、何かの思い過ごしだ、と鈴璃は思った。<br />未来妃は斜面で転び、首にケガを負った。<br />そのストーリーのどこに不審な点があるだろうか。<br />「そっか・・・。」<br />今は未来妃のストーリーの矛盾点が判らなかった。<br />鈴璃は無理やりにっこりと笑う。<br />そして、考え直した。<br />未来妃が無事だったんだから、それでいいじゃないか、と鈴璃は思う。<br />それ以上、何を求めるのだろうか。<br />「心配してくれて、ありがとう。」<br />未来妃もふっと笑う。<br />「あ、あれ周馬たちじゃない？」<br />未来妃が遠くを指差した。<br />三人のところから、人々の視線を釘付けにしながら、歩いてくる四人の男が見えた。<br />「ほんとだ。」<br />私服に身をつつんだ四人は、いい意味で個性を発揮していた。<br />ポンポンのついた白いニット帽をかぶった鉄が走ってくる。<br />「あけましておめでとーう☆」<br />可愛らしい笑顔をむける。<br />ボーダーのシャツにフード付の黒いパーカー。<br />先の丸い、エンジニアブーツにダメージジーンズをインしている。<br />「鉄っちゃん、インフルエンザ治ったんだね。」<br />未来妃が嬉しそうに言った。<br />「うん。いや～なかなか酷い目にあったよ。熱が、なかなか下がらなくてサ。」<br />鉄は苦笑いする。<br />「へえ、そりゃ、波埼も、さぞ苦しんだんだろうぜ・・・。」<br />哀がどこかニヤリとして笑う。<br />「もう！先生の不幸を、笑いのネタにしちゃだめ。」<br />未来妃が哀をこずく。<br />そうこうしているうちに、残りの三人が追いついた。<br />「やっほう！」<br />周馬は、カーキ色のコーデュロイパンツに、ハイネックの黒いセーター。<br />足元はミリタリーのようなブーツだ。<br />ニッと笑ってやいばをみせた。<br />「あけましておめでとう」<br />荒樹は黒いシンプルなシャツに、紺のジャケット。ブルーのジーンズ。<br />足元はいつものスニーカー。<br />「うわあ・・・。キャラでるわねえ。」<br />未来妃が四人を眺めてしみじみと言った。<br />鈴璃は、自分がまた、クリスマスに着ていたのと、同じコートを羽織ってきてしまったことをひどく後悔した。<br />「・・・。」<br />　飛鳥は私服も、どこか知的な感じが漂っている。ベージュのトレンチに、中から、白いカッターシャツとアーガイル模様のベストが覗いている。。<br />挨拶はもう十分だと思ったのか、何も言葉を発さない。<br />「ほら、いこーぜ」<br />周馬の威勢のいい一声で、七人は、行列の最後尾へむかった。<br />賽銭箱の前にずらりと人が並んでいる。<br />「年末はどうしたの？」<br />鈴璃が周馬にきく。<br />「四人で沖縄にいってた。荒樹が世話になってた家に、遊びにいったんだよ。」<br />「あー。そういえば、荒樹は沖縄出身だったか。」<br />哀が思い出したように言う。<br />四人もそれなりに楽しい年末だったようだ。<br />鈴璃はそれが自分のことのように嬉しかった。<br />カランカランと鈴の良い音を人々が順番に鳴らしている。<br />どの人の顔も、不景気など全く忘れたように、綻んでいた。<br />「みんな、何をお願いしてるのかな・・・。」<br />荒樹が並んでいるときに、ぽつりと言う。<br />「今年も家族が健康で良い年でありますようね、とかじゃない？」<br />未来妃がさっと返事をする。<br />「なんか、おばあちゃんみたいだネ。」<br />鉄が目を細めた。<br />「すごい人ごみだな。新年そうそう、暇なやつが多いものだ。」<br />飛鳥が行列を冷めた目で見てつぶやいた。<br />「おまえもそれに、含まれてるだろっ。」<br />哀が呆れた顔で、ツッコミを入れる。<br />「あと、十分くらいかな。」<br />鈴璃がつまさき立ちして、先のほうを見る。たくさんの頭が見えた。<br />飛鳥はもちろん待つことが嫌で、癇癪を起こすタイプではないが、こんなことに付き合わせた自分たちを飛鳥がどう定義ずけるか恐かった。<br />「次はおみくじだ。」<br />周馬はまだ並んでもないのに、次の計画を考えている。<br />「そういえば、金額によって、願いが叶うとか適わないとかいうじゃない？あれは本当かしらね？」<br />未来妃がふと思いついたことを言った。<br />「ああ。それきいたことあるな。合格祈願のため、一万円入れるとか？」<br />「そうそう。」<br />「科学的根拠が、まるで無い。」<br />飛鳥が未来妃をみてそう言った。<br />「ぼくヤだよ。どこの神様か知らない人に、そんないっぱい、おこずかいあげるの。」<br />鉄は大きくため息をつくと、そう言った。<br />鈴璃は、そうだな、としみじみ思う。<br />坂本兄弟の言っていることは、照日ノ君や白月ノ上を知っている鈴璃には、妙に説得力があったのだ。<br />カミサマはそんなくだらない事で、買収されはしない。<br />いや、買収などされている暇がないといったほうが正しいだろうか。<br />「賽銭箱といえば、５円だろ。」<br />哀がふんっと鼻息を荒くする。貧乏代表の意見らしかった。<br />「何、願う？」<br />周馬が誰とを特定せずに、質問を投げかける。<br />みんなが金髪青年の突然の問いに、戸惑った。<br />周馬は、話の展開も、どこか奇抜らしい。<br />正直なところ、誰も何かをお願いする計画をたてていなかったのだ。<br />もちろん、鈴璃もである。<br />七人で、楽しい初詣の雰囲気が堪能できればよかった。<br />「ぼくは、レギュラーになりたい。」<br />鉄がにっこりと笑う。<br />「うわー。そんなもんになって、何が嬉しいんだ？」<br />哀がドン引きした顔をした。<br />「ええー！哀ちゃんは？」<br />鉄がいじけて哀を見る。<br />「そうだな。とりあえず、来年は宝くじあたるように、祈ってみるかな。」<br />「それこそ、どうなの？」<br />未来妃がクスクス笑った。<br />「荒樹は？」<br />鈴璃が横にいた荒樹にきく。<br />「そうだな・・・いざ考えてみると難しいね。それこそ、さっき未来妃がいったみたいな。みんなの健康とか、世界平和とかを、祈ろうかな、俺は・・・」<br />「やっぱ、おまえは、馬鹿だな。」<br />哀が首をふるふると振った。<br />「未来妃は？」<br />「え？」<br />未来妃は身じろぎした。<br />「そうね・・・。」<br />少し未来妃は考える。<br />「わたしは、十分、今、幸せよ。」<br />冗談っぽく未来妃が言った。<br />「えー？あんな災難にあったのに？」<br />鉄は目をしばしばさせる。<br />「ふーん。」<br />周馬はちらりと未来妃をみた。<br />どこか悟ったような口ぶりである。<br />いつもの適当な調子だろうか。<br />「あんなことがあったのに、助かるなんて、強運よ。」<br />未来妃は手をひらひらさせた。<br />鈴璃は未来妃の態度にほっとする。<br />やはり、あの雪山で何かあったなど、思い過ごしだ―。<br />「あ、あいたよ、周馬と鈴璃、先どうぞ。」<br />未来妃がにやりとした。<br />まえで、お祈りした家族がさっと横にはけていった。<br />「さんきゅ」<br />周馬は階段をあがっていく。<br />賽銭箱と鈴は、もう目のまえだ。<br />鈴璃は慌てて、財布から小銭を探す。<br />一円玉ばかりが見えた。<br />こんな時にかぎってでてこない。<br />「あれ・・・？」<br />鈴璃が顔をあげると、青年が体を折っているのが見えた。<br />「・・・。」<br />鈴璃は財布を捜すのをやめた。<br />如月周馬は、礼をしたあと、まっすぐに正面をみすえると、二回ほど、手をたたいた。<br />鈴璃は意外な素行にびっくりとする。<br />青年のまわりで空気が透き通るように、ぴんと張り詰めたようだった。<br />その姿が、ひどく高貴に見える。<br />周馬がそんなものを知っていることもそうだが、礼儀を重んじるタイプとは思っても見なかった。<br />「・・・。」<br />ぽんと五円玉を周馬が投げ入れる。<br />そして、目を閉じた。<br />鈴璃もようやく、十円をみつけて、あわてて横に並ぶと、真似をして、同じように賽銭を投げ入れる。<br />ちらりとみると、静かな周馬の横顔があった。<br />「・・・。」<br />白い目元に、穏やかな表情浮かんでいる。<br />ゆっくりとまぶたが開かれた。<br />「？」<br />鈴璃は、あっと思う。<br />周馬は、さっさと全てを終えて、くるりと背をむけた。<br />鈴璃も慌てて、階段を降りる。<br />何かをお願いする、余裕などなかった。<br />「さて、先にみくじにならんどくか？」<br />青年はにっこりと、綺麗な笑顔を鈴璃にむけた。<br />「・・・何を、お願いしたの？」<br />鈴璃は首をかしげる。<br />その美しい瞳が、ふたたび現れるとき、鈴璃は青年の願いを一瞬だけ見た気がしたのだ。<br />「・・・。」<br />青年は、少し鈴璃の質問に驚いたが、いつもの余裕に満ちた表情を取り戻す。<br />如月周馬が、望むこととは何だろう。<br />彼自身で手に入れられず、神様にお願いするほどのこと。<br />何にもとらわれない、この青年がとらわれていること。<br />鈴璃は、青年をみつめた。<br />あたりのザワザワと人々が立てる音が消えてしまうほどに、その一心に捕らわれる。<br />「おまえが―」<br />周馬はくったくなく、にっこりと笑う。<br />鈴璃は冷たい息を吸い込んだ。<br />「・・・？」<br />その妖艶な口がそっと開かれる。<br />「俺を―」<br />ドンッ！<br />ぐらりと鈴璃の体のバランスが崩れる。<br />「あっ！」<br />鈴璃に誰かがぶつかったのだ。<br />視界から金髪の青年が一瞬消えた。<br />「すみません！」<br />別の誰かの声が置いていかれた。<br />「―にってね。」<br />鈴璃は目をしばしばさせる。<br />周馬は先ほどと変わらぬ表情でそこに立って、笑っていた。<br />「え？」<br />鈴璃はぽかんとする。<br />「ほらいこう」<br />時間が失われた―<br />そう感じるほどに、綺麗にセリフは抜け落ちた。<br /><br /> ]]>
</content:encoded>
<dc:subject>Ⅰ七色鬣ブレンド</dc:subject>
<dc:date>2009-11-24T22:58:00+09:00</dc:date>
<dc:creator>くらん</dc:creator>
<dc:publisher>FC2-BLOG</dc:publisher>
</item>
<item rdf:about="http://qran.blog8.fc2.com/blog-entry-201.html">
<link>http://qran.blog8.fc2.com/blog-entry-201.html</link>
<title>月下永人　１９７　アシュリンシステム</title>
<description> 漆塗りの箱には今日はまた別の着物が入っていた。青い縮緬に黄色の帯紐。どれも哀には着るのが難しすぎて、しばらく考えたものの、哀は制服のまま畳の上に寝転がった。「めどくさ・・・」足袋を履いた自分の足をみる。それくらいなら哀にもできたのだ。「あーあ・・・」クリスマスライヴのリハーサルをドタキャンして、ナツミは機嫌が悪いだろう、と哀は思った。Xの曲をするには、それなりの心構えが必要だ。お経のように唱えてい
 </description>
<content:encoded>
<![CDATA[ 漆塗りの箱には今日はまた別の着物が入っていた。<br />青い縮緬に黄色の帯紐。<br />どれも哀には着るのが難しすぎて、しばらく考えたものの、哀は制服のまま畳の上に寝転がった。<br />「めどくさ・・・」<br />足袋を履いた自分の足をみる。それくらいなら哀にもできたのだ。<br />「あーあ・・・」<br />クリスマスライヴのリハーサルをドタキャンして、ナツミは機嫌が悪いだろう、と哀は思った。<br />Xの曲をするには、それなりの心構えが必要だ。<br />お経のように唱えていた、ナツミの赤い唇が思い出される。<br />何で、よりにもよって、花添えが、こんな日に―と哀はストレスを感じた。<br />「象(きさ)姫様！もう渡りまで、幾分も時間がありませんよ。どうしたのですか！」<br /><br />姫宮に入ってきた稲姫はびっくりして目を丸くする。<br />若葉色の髪を洒落た鼈甲の簪で上げている。<br />白いうなじが色っぽい。<br />「もう、このままでいいじゃん・・・」<br />哀がため息をつく。<br />「いけません！」<br />稲姫は哀に駆け寄ると、哀をひっぱり起こして、部屋の真ん中に立たせる。<br />「いいって・・・」<br />手早く帯を手に取ると、着付けを始めた。<br />「瑞(たま)姫(ひめ)さまに、こんなことが知れたら・・・」<br />稲姫はごくりと生唾を飲んで、より一層テキパキと手を動かす。<br />「お局ことなんか、知るかよ・・・」<br />哀は心底だるそうな声で言った。<br />一番上の姉姫の、青く涼しい目元が再生される。<br />きつく吊った目も、さぞ着物には栄えるのだろう、とぼんやりと思った。<br />稲姫が哀の周りをくるくる回って、その格好はどんどん豪華になっていく。<br />「お化粧は・・・いいですね。ばっちりです。ちょっとばっちりすぎるくらいに・・・」<br />稲姫は口元に手を添えて考え込んだ。その姿がなんとも愛らしい。<br />「稲姫、おまえがいけよ」<br />哀はすぐにでも、ROPに戻りたかった。<br />まだ、間に合うかもしれない。<br />ナツミに会って。「Ｘやろう！」と言ってやりたい。<br />「だめです！これは順番なんですから」<br />「はぁ・・・」<br />哀は深くため息をつく。<br />所詮適わぬ願いのようだった。<br />「はいできました」<br /><br />二回目の花添―。<br />そりゃあ、一回目は神様に会うって言うんだから、ワクワクもした<br />だけど、今はただめんどくさい、年中行事の一環のようなもんだ<br />形式ばった質問しかこないし、だいたい「いいとも」も見てない人間と話が合うわけがない<br />ましてや、大事なリハーサルが・・・<br /><br />哀は悶々と欲望を押し堪えながら、悔しさを押し殺して、照日ノ君の住まう神宮の前まで来る。<br />「はいりまーす！」<br />哀はそう言って、太陽の間の襖をあけた。肘掛にゆったりと身をあずけた照日ノ君が微笑んだ。金色の芳香が哀の鼻をくすぐる。<br />「よくきたね」<br />金色の緩くウェーブした前髪が頬にかかっている。白く尖った顎のうえに、三日月のように微笑んだ唇があった。<br />最果てにある惑星のような金色の瞳が揺れる。<br />男は相変わらず、神々しい美しさを放っていた。<br />「どうも」<br />哀は言われたとおり、酒の載った盆をこぼさない様に傍まで運ぶと、照日ノ君の横で正座した。<br />着物がきゅっと締め付けてくる。<br />「象(きさ)らしい姿で、いなさい」<br />照日ノ君の黄金色の目が哀の奥を見た。<br />足にすっと手をかざす。<br />「足崩してもいいのか？」<br />哀が何の可愛らしさもプラスせずに訊いた。<br />「いいよ」<br />それでも後光を浴びた男はにっこりと微笑む。<br />男は哀に窮屈な時間を与えなかった。<br />「元気そうで何よりだ。先の任務での活躍を耳にしたよ。」<br />「ああー・・・」<br />哀はクォードリリオンと戦ったことを思い出した。<br />成田空港では、自分も頭に酷い傷を負った。視界が真っ赤になったことが脳裏に蘇った。<br />しかし、あの日はどちらかというと、火果が天雅元馬を守ったのだから、ほとんど活躍していない、とふと思う。<br />「天雅とは、話をしたか？」<br />照日ノ君はそっと酒を口に運ぶ。<br />哀は少し考えた。<br />男とは、会話らしい会話をしていない。<br />頭に五センチほどの亀裂がはいったというのに、感謝の一言も無く、男は何事も無かったかのようにセスナでどこかへ旅立ったきり、音沙汰無しなのだ。<br />日本で一番大切な人物、火果がそう言ったのを思い返す。<br />陽族に協力する天雅一門のトップ―。<br />恐らく、本堂と同様、彼も照日ノ君に忠誠を尽くす、側近なのだろうと思った。<br />じっくりと考えて、返答を探すのだが、男に関して哀は良い点が浮かんでこない。<br />哀は自分らしさを優先した。<br />「いいや。つまんねー男だった。あいつに日本をまかせるのは、どうかと思うぜ。」<br />哀が冗談めいて言うと、照日ノ君がクスクスと笑った。<br />「そうかもしれないね。彼は真面目な男だから。」<br />照日ノ君は哀の調子にあわせる。<br />「あの本堂の、兄貴なんだろ？」<br />「そうだよ。」<br />「兄弟揃って、冴えねーな。」<br />照日ノ君は哀の発言にクスクスとまた、小さく笑う。<br />「天雅の一族は、たいへんなものを背負っているからね・・・」<br />照日ノ君は蝋燭の火を見つめた。<br />「？」<br />哀は首をかしげる。<br />「ＩＵの本部が壊滅してしまってから、我々は衰退するばかりだから・・・円卓会議の一席を担う彼らにも、負担がかかっている。」<br />「・・・。」<br />哀は眉間に皺をよせる。<br />「あの日からの戦いが、こう長引くと、菖蒲は思わなかっただろう・・・」<br />ぽつりと照日ノ君がつぶやいた。<br />急に、聞きなれない名前が現れる。<br />哀は記憶をたどって、それがだれだか思い出した。<br />「菖蒲って、一番初めの戦姫か？」<br />哀は言い過ぎたことを少しだけ反省して、頭をかく。<br />天雅の一族は、気高き初代戦姫、菖蒲の君の末裔ということになっているのだ。<br />「ああ。・・・彼女こそ、黒夜叉と戦った、初代戦姫・・・高潔な乙女だよ」<br />まるで、まだ生きているかのような口ぶりだ、と哀は思った。<br />深い愛情がそうさせるのだろう、哀はそれをしみじみと感じる。<br />「・・・。」<br />本堂は、自分たちが、照日ノ君と菖蒲の子の末裔だと言っていた。<br />哀は、横にいる神の悲しげな表情を見て、それが、突然、真実のように感じられる。<br />天雅の一族が、照日ノ君と菖蒲ノ君の子孫であろうとなかろうと、<br />神にとって、彼女が当別だったことは、間違いが無い。<br />遠い一千年前の思いが、まだ現代にも残っている。<br />そんな気がした。<br />「彼女は、霞む満月の夜、鬼をついに倒した。その時の傷のせいで、亡くなってしまったけれどね・・・」<br />哀は、「鬼」といういのは、黒夜叉のことだろうか、とぼんやり思う。<br />「そうか・・・」<br />哀は見たことのない巫女に想像をめぐらせる。その姿が羅姫と重なった。美しく、気高い。それでいて、優しさを持っている。<br />「綺麗な人だったんだろうな・・・」<br />しかし哀は同時に違うことも思った。<br />きっと、悲しい最後だったのだろう―。<br />花の命が、安らかに、失われることは、ありはしないのだ。<br />「そういえば、火果からきいて、気になることがあったんだが―・・・。」<br />照日ノ君は思い出したように言う。<br />「ん？」<br />哀は首をかしげた。<br />「確か・・・百(もも)と象の友達が長野の雪山で、遭難したとか・・・」<br />照日ノ君は、突然に話題を変えたようだった。<br />「よく知ってるな。」<br />哀は驚いた顔をする。<br />「色々と、大変だっただろう。無事でなによりだ―・・・」<br />「ああ。運よく無事だったんだ。でも、火果とガチ喧嘩になったんだよ。助けにいくか、行かないかで。」<br />「そう・・・。」<br />照日ノ君はしばらく沈黙した。<br />「火果も難しい立場だから、厳しいことを言ったのだろうね・・・」<br />「さぁな。」<br />哀は思いっきり酒を煽る。<br />あの日のことを思い出すと、胸糞悪かった。<br />「あの日は、不思議な夜だった・・・。」<br />照日ノ君が思い出すようにつぶやいた。<br />「？」<br />哀は杯から照日ノ君に目を移す。<br />照日ノ君は一瞬迷ったが、口をひらく。<br />「君たちは・・・円卓(アシュリン)システムを知っているか？」<br />金色の目が決意を持って、哀を見た。<br />「アシュリンシステム？」<br />哀が聞きなれない言葉に、反唱する。<br />なんとなく、その響きに、鈴璃がしていた安島のことを思い出した。<br />「ああ、陰のテーブル、円卓会議のことか？」<br />アシュリンというのは、円卓会議の英名である。<br />「円卓会議のデータの集合こそ、アシュリンシステムだよ。マザー・アースという中枢コンピュータを母体としている。全てのデーターソースであり、今は世界の脳と目といっていい。まあ、ＩＵの全世界を繋げる、独自のネットワークだ。」<br />「・・・で、それが？」<br />哀はつまみをぱくぱく食べた。<br />本堂が持ってきた茶菓子は味が薄い、と思う。<br />「それと連動した、ある程度の妖力(エネルギー)を観測する、衛星が打ち上がっているんだ。」<br />「？」<br />哀の頭に、地球の淵が思い浮かぶ。<br />「名を、ソラリスという。」<br />哀にはその名前の由来がわからなかった。<br />「これは、ヒュレン化している者が探せるわけではなく、天人やミミックが力を発したときにでるエネルギーを感知、計測できるものなんだが・・・。」<br />「・・・そうなのか？」<br />哀はびっくりして酒を飲む手を止めた。<br />そうならば、いつか白月ノ上の夢告も、あまり必要なくなるかもしれない。<br />どこに敵が居るか、すぐに判明するのだ。<br />「ただ、まだあまり性能がよくなくて、テスト段階だ。誤作動もある。だから、あてにはできないんだが・・・」<br />照日ノ君は苦笑いした。<br />「それが１００％だったら、便利なのにな・・・。どこにミミックがいるかとか。わかるだろ？そしたら、病気してまで、白月ノ上が夢を見なくて済む。」<br />哀は苦しそうに、時折、白月ノ上が息をあげるのを思い出した。<br />あれは、未来をみるための、副作用なのだ。<br />「あの時、わりと大きなレベルで、あの雪山でエネルギーを観測したらしいんだ。」<br />「・・・？」<br />哀は眉間に皺をよせる。<br />「君たちの喧嘩で、針が触れたのかもしれない。火果はヒュレン化した覚えはないといっていたが・・・」<br />「・・・。」<br />哀は考え込んだ。<br />あの日、鈴璃と哀は水晶の錠をはめられた。<br />自分たちが反撃のため、ヒュレン化するのが早かったか、<br />火果が先に錠をつけてしまったのか、<br />はっきりとは覚えていない。<br />「ヒュレン化したとしても、そんなに力は使ってないと思う。」<br />哀は感じたままを言った。<br />「そうか・・・ではやはり別の者の可能性が・・・」<br />照日ノ君は珍しく、妙に厳しい顔をして、蝋燭の明かりを睨んだ。<br />「・・・どういうことだ？」<br />哀は顔をしかめた。<br />「わからない・・・」<br />照日ノ君は言葉を濁した。<br />「ただ・・・ソラリスの観測した反応が、我々のものでないとすると、気になることがある・・・。」<br />哀は驚いた。<br />「・・・？」<br />哀は先を促すように、黙っている。<br />「火果からきいたのだが、彼女は首に大怪我負ったそうだね。」<br />哀は瞬いた。<br />「ああ。」<br />照日ノ君は何かを考えるように、また難しい顔をする。<br />「その時のことを、何か話したかい？」<br />「ああ。転んで、崖の下に落ちたんだ。その時に倒木で首を怪我したらしい。」<br />哀は何をそんなに不自然に感じるのだろうと思った。<br />「それと、そのソラリスとかいうのと、何か関係があるのか？」<br />「あの時、確かに、反応はあった。そうきいている。それが、真実だとすれば・・・」<br />照日ノ君は哀をすっと見た。<br />「ああ？」<br />「そして、その反応が、君たちのものでないとすれば―」<br />哀は悟って、目を丸くした。<br />知らない、天人のエネルギー反応。<br />それはつまり―<br />「陰族だっていうのか？」<br />哀は声を張り上げる。<br />照日ノ君は黙っていた。<br />「じゃあ、未来妃は怪我ではなく、陰族かミミックに襲われたと？」<br />「・・・ああ。」<br />信じられない、問題が生まれてしまった。<br />哀は必死にあの夜のことを思い出そうとした。<br />未来妃が行方不明になったのが、スキー二日目の夕方遅く。<br />捜索隊による捜索開始が午後七時。<br />終身時間の午後十時から三十分すぎたころから、未来妃を助けにいく準備を鈴璃とはじめ、<br />火果が現れて、大喧嘩をしたのが、２３時ごろだろうか。<br />手錠をされ、にっちもしない時間が長時間。<br />そして、火果がふたたび部屋に現れたのが、午前五時―。<br />波埼が未来妃をみつけたという情報だった。<br />「そんなはずは無い。学校の教師が結局、未来妃をみつけたんだ。怪我する現場を目撃してる。」<br />「・・・そうか。」<br />照日ノ君は静かに返事をした。<br />「考えすぎだろう。未来妃が襲われる理由もないし、もし偶然にミミックに出くわしたのならば、獲物を残してあいつらが消えうせるわけが無い。」<br />「確かに・・・そうだね。考えすぎかな。」<br />照日ノ君はようやく笑顔を取り戻した。<br />「大丈夫だって」<br />哀も、ふっと力をぬいて笑う。<br />だが、どこかで、もしあの夜、未来妃が死んでしまっていたらどうなっただろうか、と思う。<br />ケガではなく、ミミックに出くわしていたら・・・<br />考えたくもなかった。<br />哀はドボドボと照日ノ君の杯に酒をついだ。<br />「ありがとう」<br />照日ノ君は綺麗に笑った。<br />哀は気を紛らわせる。<br />もし、未来妃にあの雪山で何かあったのならば、<br />未来妃は言ってくれるはずだ―。<br />　哀は違うことを考えたかった。<br />「なぁ、あたしのこといつ抱くの？」<br />哀は照日ノ君を真っ直ぐに見上げた。<br />照日ノ君は驚いて目を見開く。<br />「ふふふ・・・なんてことをきくんだい・・・君は本当にいけない子だね」<br />照日ノ君は金の扇で口元を覆いながら、笑いを堪(こら)えた。<br />「象(きさ)の瞳がいいといえば、わたしはこの指をいつか君に添えよう。まだ君の目はそうは云っていない」<br />照日ノ君は哀の赤目を見つめる。<br />なるほど。これだからみんな大好きってわけだ。<br />哀は納得がいった。<br />「言っておくけど、あたしの体は、神様にささげるような、綺麗なもんじゃない。」<br />哀は瞬いた。<br />「象(きさ)、君は十分美しい、わたしの花(はな)だよ」<br />吐くような言葉も照日ノ君が言えば、まったくもってそれらしい言葉になった。<br />これはこれで、いいクリスマス・イヴだったかもしれない、と哀はふと思った。<br /> ]]>
</content:encoded>
<dc:subject>Ⅰ七色鬣ブレンド</dc:subject>
<dc:date>2009-10-31T20:03:28+09:00</dc:date>
<dc:creator>くらん</dc:creator>
<dc:publisher>FC2-BLOG</dc:publisher>
</item>
<item rdf:about="http://qran.blog8.fc2.com/blog-entry-200.html">
<link>http://qran.blog8.fc2.com/blog-entry-200.html</link>
<title>月下永人　１９６　共犯</title>
<description> ガーデンの回瀬に、波埼の家のカギを渡された未来妃は、深呼吸してステンレスの扉のまえにたった。８０５の数字を眺める。第一声なんていおう。あれから、一度も会ってない。未来妃は悶々と思案した。波埼はあの雪山での事件以来、学校にも姿を現していない。もう、二週間になるだろうか。回瀬は、ただの悪い風邪だと言っていたけど、やっぱり納得できなかった。「留さん、ごめんね・・・」未来妃はひどく回瀬を騙したような気がし
 </description>
<content:encoded>
<![CDATA[ ガーデンの回瀬に、波埼の家のカギを渡された未来妃は、深呼吸してステンレスの扉のまえにたった。８０５の数字を眺める。<br />第一声なんていおう。<br />あれから、一度も会ってない。<br />未来妃は悶々と思案した。<br />波埼はあの雪山での事件以来、学校にも姿を現していない。<br />もう、二週間になるだろうか。<br />回瀬は、ただの悪い風邪だと言っていたけど、やっぱり納得できなかった。<br />「留さん、ごめんね・・・」<br />未来妃はひどく回瀬を騙したような気がして、そうつぶやいた。<br />クリスマスに、波埼にケーキを作りたい、と申し出た未来妃に、回瀬は快く作り方を教え、いっしょにゴージャスなケーキを完成させた。<br />丁寧にラッピングを終えると、にっこりとして、波埼の部屋鍵を渡した。<br />彼は女子高生と無愛想な教師の小さな恋を、援護射撃したつもりだっただろう。<br />しかし、今の未来妃の思惑とは、それは違った。<br />「・・・。」<br />未来妃はきゅっと目を閉じる。<br />あの日のことに、真偽をつけたい。<br />未来妃は、やはりあの日のことが忘れられなかった。<br />あの戦慄の夜のことを―。<br />あれが、夢であったのか、そうでなかったのか―。<br />もしあれが、夢だとしたら、いったい自分は何を考えているのだろうか。<br />あんな異常な、狂気じみた夢をどうして見てしまったのだろうか。<br />―確かめたい<br />未来妃の中で、ウズウズと解消しきれない記憶が未だに残っていた。<br />しかし、同時に別の恐怖も覚えていた。<br />本当にそれを知っていいのだろうか。<br />霧を取り払った、視界に何が残ってしまうのか。<br />「・・・どうしよう・・・」<br />未来妃は可愛らしいピンクと赤のリボンでラッピングされたケーキの箱を眺めた。<br />「いいのよ・・・わたし先生のこと、本当に、好きだもの。」<br />自分にいいきかせるように、未来妃はつぶやく。<br />「わたしは、これを先生に渡したいから、きたのよ。」<br />自分は、ケーキを届けにきた。そう、それだけだ。<br />それを口実に、波埼の真実を抉るようなつもりはない―。<br />未来妃ははや五分ここでこうしているのだが、いっこうに何をどうしようとして、ここまできたのか判らなくなってしまっていた。<br />恐い、でも知りたいと思う気持ちと、男が好きであり、安易に妙なことを言うものではないと思う気持ちがごちゃ混ぜになっている。<br />「考えてても、しかたない」<br />未来妃は作戦を考えることを放棄して、チャイムを鳴らした。<br />しばらく待ってみたが、返答はない。<br />「・・・。」<br />居ないのかも、とどこかほっとする。<br />もう一度ボタンを押した。<br />じっと息を飲んで、インターホンを見守った。<br />サーッという空気音がする。スイッチがオンになったのだ。<br />「！」<br />未来妃は急に体温が一度くらい上がった気がした。<br />「あの、夏川です！」<br />声がちいさく震えている。<br />「・・・なんで来た・・・」<br />波埼は不機嫌そうな声で、電子音を響かせた。<br />「・・・。」<br />「クリスマスだから、ケーキ、留さんとつくって、もってきたんです。」<br />「要らん。」<br />男は即答した。<br />未来妃は男のいつもと変わらない態度に少し安心した。<br />やっぱりあれは、何かの勘違いだったのだ。<br />「・・・要ります！」<br />未来妃は腰に手をあてて、口先をとがらせる。<br />教師に恋心をよせる生意気な女子高生が帰ってきた。<br />「・・・。」<br />男は何も言わなかった。<br />「先生には、必要です！こっちに、鍵はあるんです！」<br />未来妃は金を要求する銀行強盗のような物言いで、一気にそう言い切った。<br />「・・・。」<br />しょうがいないっといった感じで、波埼は返事をしなかった。<br />未来妃はイエスの意味だと解釈し、鍵を開けて、中に入る。<br />「おじゃまします・・・」<br />すっと冷たい空気が足をすくっていった。<br />何も無い廊下から、以前と何もかわっていないリビングが見える。<br />滑らかに反射するフローリングが奥へと続いていた。<br />靴を脱いで、そっと中に入ろうとする。<br />「・・・。」<br />中の気温が異常に低く感じた。<br />未来妃は恋愛とは全く別物の緊張を覚える。<br />―もしも、あれが夢じゃなかったら・・・<br />僅かに、また不安が過ぎった。<br />思わずケーキの箱を壁にぶつけてしまう。<br />「まさか・・・ね・・・。」<br />回瀬お手製の、ロンゲのサンタクロースの砂糖菓子が、落ちてしまったかもしれない。<br />未来妃はぶんぶんと一人で、頭をふった。<br />とびきりの笑顔で、リビングに入る。<br />「先生！鍵くらい―・・・」<br />未来妃は言葉を失ってしまった。<br />中に入ると、相変わらず、包帯が散らかっていて、水の５００ミリリットルボトルが三本ほど、カウンターに置かれている。<br />角のほうに、仙藤がプレゼントした観葉植物の鉢は割れて、土が散乱していた。<br />黒いソファに、波埼の背中が音も無く座っている。<br />「先生・・・」<br />男は不機嫌そうに、振り返り、こちらを一瞥する。<br />白い包帯で上半身を巻かれ、下は黒いジーンズを履いている。<br />目元がいつもより、青ざめていた。<br />未来妃は、その姿を見て、体の内側から熱が冷め切っていくのを感じた。<br />「・・・。」<br />ケーキの箱が妙に重たく感じてくる。<br />じわじわと、未来妃の気持ちも体温も下がっていった。<br />それは、五感全てで、あの日のことを、今その瞬間に、悟ってしまったからだった。<br />―やっぱりあれは、夢ではなかった<br />未来妃は強張ったまま、そこを動けない。<br />「理解したなら、帰るがいい。」<br />男は黒い眼差しをすっと、未来妃にむけた。<br />波埼は、未来妃が何をしにきたのか、わかっていたようだ。<br />あの不可解な出来事が真実であったのか、夢であったのか、女が確かなものをつかむためにここに来ることを少なからず、予測していたらしい。<br />「わたしは・・・。」<br />波埼はカーテンの隙間から、漏れる光を眺めるように、下をむいいている。<br />未来妃は未だにケーキの箱をもってつったったまま、包帯のまかれた男の背中をじっと見た。<br />「・・・。」<br />男は少しだけみじろぎしたが、態度を変えない。<br />未来妃は諦めて意を決する。<br />自分がケーキで創り上げようとした、喜劇ではなく、本当はそこにあった、悲劇を取り出す覚悟を決めた。<br />「あの日・・・。」<br />未来妃はどこかい自分に言い聞かせるように言った。<br />その瞬間から、何か別の道へ逸れてしまう不安を押し殺しながら、やっとのことで、でた言葉だった。<br />「・・・。」<br />波埼の横顔は何を考えているのか、読み取れない。<br />また少し真実に向き合うのが恐くなって、入り口を変えてみる。<br />「あの箱、先生ね？」<br />波埼は何も感情をださなかった。<br />未来妃が言っているのは、病院に届けられたチョコレートの小箱のことだ。<br />未来妃がゴディヴァのチョコレートが好きだ、と言ったのは、あの合宿所で波埼に一度きりだけだ。<br />未来妃は目のまえの男は、どういうつもりであの箱を、そっと病院の窓辺置いたのだろうか、と思った。<br />　男がしている包帯は、あの夜の怪我が本物だったからだろう。<br />あの銃撃戦が仮想現実ではなく、痛々しい現実だったからなのだ。<br />男の体には、無数の銃弾が打ち込まれた。<br />そして、首筋の傷跡も―。<br />だとすれば、チョコレートは甘い見舞いなどではなく、苦い懺悔だった。<br />「あの日・・・」<br />未来妃は言葉をかみ締めるように、紡ぐ。<br />波埼は鬱陶しそうに一度瞬いただけだった。<br />「あの日、本当は―」<br />「・・・かえれ。」<br />波埼は、遮るようにそう言った。<br />しばらくの沈黙が訪れる。<br />「・・・。」<br />未来妃はじっと、自分を見ない波埼の背中を睨むと、波埼のまえに移動した。<br />「嫌、わたしの目を見てくれるまで帰らない。」<br />男の前で、仁王立ちした未来妃ははっきり言ってのけた。<br />それは、酷く子供のような言い方だ。<br />男はゆっくりと、首をこちらに戻す。<br />未来妃は男の鋭い目線にも、耐えた。<br />「おまえは、見ただろう」<br />男の静かな声が、ゆっくりと編み出された。<br />「・・・。」<br />「俺が次々と、奴らを嬲り殺すのを」<br />未来妃は瞬いた。<br />やっぱり、あれは本当だった。<br />何もかも。<br />「目をぎらつかせて、獲物として、おまえの首を食った―この俺を。」<br />波埼は静かに無機質な部屋に言葉を響かせた。<br />その音に記憶が再生されるようで、未来妃は身震いする。<br />あの夜、目の前に居る美しい男は、化物となった。<br />それは、やはり真実だったのだ。<br />確定された事実が、目頭を震えさせた。<br />「あれは・・・、波埼神じゃなかった。」<br />未来妃は、あの時にそう感じたことを、述べる。<br />そう言うことだけで、いっぱいいっぱいだった。<br />「・・・。」<br />男はふと、何かを考えるように目を逸らした。<br />もう、ケーキのことなどどうでもよかった。<br />「先生の体はちょっとおかしいかもしれない。鱗とか、羽とか、生えてて・・・」<br />未来妃は下をむいて、必死に自分を進ませるように言葉を作ったが、声は震えている。<br />「でも、あれは先生の意思とは違った。わかるの。別の何かよ。」<br />未来妃はもう半分泣いていた。<br />その場に、くたりと膝をつく。<br />力が抜けていった。<br />「・・・。」<br />波埼は未来妃を真っ直ぐに睨む。<br />厳しさを称えた、その目はその意見に否定的なことが伺えた。<br />「だから狙われているんでしょう？」<br />未来妃はすっと息を吸い込み、泣き止むとそれだけ言った。<br />真実を知ってしまう、何か恐ろしいことに触れてしまう。<br />それが、どの感覚でも理解できた。<br />だが、それに負けられない。<br />純粋な、男への気持ちだけが未来妃を支えていた。<br />「わたしは、真実を受け止めるから・・・本当のことを言って・・・」<br />未来妃の潤んだ瞳が、真っ直ぐに波埼を見つめる。<br />部屋の冷たさが指先をなでる。<br />未来妃は意を決した。<br />「お願い」<br />男は静かに何かを考えると、小さく一度だけ、顔を背ける。<br />未来妃はじっと待った。<br />まっすぐな思いだけが、注がれる。<br />波埼はついに、意思を持って未来妃の目を捕らえた。<br />「・・・俺はこの中に、もう一匹別のものを飼っている。」<br />波埼はそう急に言って、眉間に皺をよせた。<br />男がはじめて、自分のことを口にした瞬間だった。<br />「それが、先生を乗っ取って・・・あんな風に・・・。」<br />未来妃はそっと、白い手をみつめる。<br />鱗が生え、羽が生え、爪が伸び、血管が浮き、色はどす黒くなっていたその手は今はなんのへんてつもない美しい手だった。<br />「・・・これは・・・」<br />波埼は目をそっと閉じた。<br />まだ何かを躊躇しているようだ。<br />「おまえが見た俺はまだ、途中段階だった。完全に支配された俺は、おまえを本当に殺していたかもしれない。」<br />首筋がズキリと痛む。<br />「・・・それでも、先生は悪くないよ・・・」<br />未来妃はその言葉を言うことに、何の抵抗も覚えなかった。<br />あの夜は、酷く恐ろしかった。<br />だが、今冷静に考えてみると、あの時、殺されていても、それはそれでいい、と思える自分が居る。<br />それぐらい、好きなのだ。<br />「俺が覚めていたにしろ、いなかったとしろ、危険な化け物であるということに変わりはない。」<br />「でも・・・」<br />未来妃は反論しようと身を乗り出す。<br />「もう一度、触れればおまえは帰れなくなる。」<br />男はいつもの数学の回答を述べるように、無機質に断言した。<br />電気のない暗い部屋。<br />動かない家具たちが、恐怖したように音を立てない。<br />「・・・。」<br />凍えるような感覚がそっと、未来妃の首元を撫でる。<br />ひょっとしたら、また闇がアレを呼び寄せるかもしれない。<br />「・・・恐かった・・・。先生じゃないと思った。」<br />未来妃は穏やかにそうつぶやいた。<br />「それでいい。」<br />波埼は短く返答する。<br />「でもわたしは先生になら、何をされても平気。」<br />「・・・。」<br />波埼はわずかに、その目を丸くする。<br />未来妃は立ち上がると、男が座っているソファの横に座った。<br />未来妃は波埼に向き直ると、顔をあげた。<br />「わたし、誰にも言わない。」<br />静かに呪文を唱えるように、未来妃は言った。<br />その言葉がたまらなく心地よい。<br />「・・・。」<br />波埼は珍しく、少し驚いた顔をしていた。<br />「わたしは、先生が何であろうと、好きなの。」<br />未来妃は自分が思っていた以上に、簡単にそれが言えたことに驚いた。<br />相手がどう思っていようと、嫌われようとも、タイミングが別にあったとしても、今それが言いたかったのだ。<br />まさに晴天の霹靂だった。<br />すっと視界が澄んでくる。<br />自分から生まれた熱が、男への恐怖を溶かしていく。<br />「被害者は嫌よ」<br />未来妃は瞬いて、波埼の目を見つめた。<br />「もし、誰かにわかってしまったとしたら、わたしも殺したって言う。」<br />「何を言って・・・」<br />波埼は眉間に皺をよせる。未来妃がそっと男の肩をつかんだ。<br />「共犯がいい。」<br />未来妃の黒い瞳が切なそうに、男をみつめる。<br />無関心な目が、はじめて迷いに満ちた。<br />「ね・・・。」<br />未来妃は薄い唇に誘われた。<br />「わたしと、先生は共犯よ」<br />そっと、口づけする。<br />「！」<br />一瞬が長い長い時間のように感じられた。<br />涼しい香りを吸い込んで、幸福が背筋をふわりと抜けていく。<br />男が驚いているのか、怒っているのか、眼を閉じている未来妃には判らなかった。<br />そして、口だけがこう言った。<br />「あの時、半分は先生が、もう半分はわたしが殺したの」<br />少女は、どこか女になった眼差しで、男にそう言った。<br /> ]]>
</content:encoded>
<dc:subject>Ⅰ七色鬣ブレンド</dc:subject>
<dc:date>2009-10-31T17:23:09+09:00</dc:date>
<dc:creator>くらん</dc:creator>
<dc:publisher>FC2-BLOG</dc:publisher>
</item>
<item rdf:about="http://qran.blog8.fc2.com/blog-entry-199.html">
<link>http://qran.blog8.fc2.com/blog-entry-199.html</link>
<title>月下永人　１９５　クリスマス・ツリー</title>
<description> 通りにも、広場にも相変わらず人が居ない。ベージュのタイルが敷き詰められた道には、隙間風が時々通っていった。鈴璃は、寂しげな冬の商店街を見渡す。活気を失ったこの街には、年末商戦というものは無いらしい。周馬と鈴璃は、まるで地球上最後の二人になってしまった男女のように、よりそって通りを歩く。そう感じるほどに、静かだった。「あそこ」周馬が目的物を見つけて言う。真っ直ぐに黒いウールの指先が目的物を指している
 </description>
<content:encoded>
<![CDATA[ 通りにも、広場にも相変わらず人が居ない。<br />ベージュのタイルが敷き詰められた道には、隙間風が時々通っていった。<br />鈴璃は、寂しげな冬の商店街を見渡す。<br />活気を失ったこの街には、年末商戦というものは無いらしい。<br />周馬と鈴璃は、まるで地球上最後の二人になってしまった男女のように、よりそって通りを歩く。<br />そう感じるほどに、静かだった。<br />「あそこ」<br />周馬が目的物を見つけて言う。<br />真っ直ぐに黒いウールの指先が目的物を指している。<br />寂れた商店街の広場に、ぽつりとツリーが飾られていた。<br />まるで、商店街の経済力そのものを現しているようなサイズだ。<br />キラキラと小さな光を放っている。<br />「・・・すわろっか。」<br />二人はツリーのまえのベンチに座る。<br />鈴璃は寒いフリをして、少しだけ、近距離で横に座ってみた。<br />ふわりと周馬のいい匂いがする。<br />鈴璃はその白いうなじに気をとられないように、ツリーを眺めた。<br />小さな木が七色の輝きを放っている。<br />涙形の電飾がチカチカと光っていた。<br />小さなベルや、サンタクロース、金のりんごに、くつしたなどおなじみの飾りが施されている。<br />「きれい・・・」<br />可愛らしいツリーは優しい光を放っている。<br />映っては消えていく光が鈴璃を心地よくさせた。<br />「これだけいろんな電飾があれば、こんな小さなツリーでも、見てて、十分飽きないね。」<br />鈴璃は周馬に笑顔を向けた。<br />小さいことなど、全く気にならない。<br />本当のことを言えば、この時間を楽しむのに、電球が一個でも、何の問題はなかったかもしれない。<br />いや、目のまえに何もなかったとしても、二人でそっと寄り添って、寒さを凌いでいるだけで、幸せだ。<br />鈴璃はそう思った。<br />「七つ・・・。」<br />周馬がぽつりと言う。<br />何のことだろう、と鈴璃は興味を引かれた。<br />「え？」<br />鈴璃は真剣にツリーを眺める横顔を見る。<br />金色の髪が、電飾の色を写していた。<br />ふわりふわりと色味を変え、青年のすっと引かれた目元を飾る。<br />質問をしたことさえ忘れるほどに、鈴璃はしばらく見惚れていた。<br />「七色だろ。」<br />青年はふっと笑って鈴璃を見返る。<br />小さなやいばがのぞいてみえた。<br />泣きぼくろの傍らの瞳が、煌く。<br />鈴璃はツリーのことであることを理解して、再び小さな木に向き直った。<br />「・・・。赤に、青・・・」<br />電球を数え始める。<br />点滅している明かりたちは、なかなか捕らえることができなかった。<br />「緑でしょ・・・、ピンク・・・」<br />木の裏側を調べようと、身を乗り出す。<br />すっと隙をついて、木枯らしが首を抜けていった。<br />「白、紫、オレンジ。」<br />周馬が残りを言い切った。<br />その目はじっとツリーを見ている。<br />「ほんとだ。」<br />鈴璃は何も考えずにそれを受け入れた。<br />しばらくの沈黙が訪れる。<br />青年は鈴璃のほうなどみずに、その光の虜になっているようだった。<br />「きっと、七色の光が混ざり合って、綺麗に見えるんだろうね。」<br />鈴璃は青年の考えていることを想像して、言ってみる。<br />周馬はそれの何が可笑しかったのか、僅かに含み笑いをした。<br />「まるで―」<br />そこまで言うと、口を閉じる。<br />しばらく待ってみるが、次がきけない。<br />その間も冷たい風が吹いていく。<br />「・・・虹みたいね？」<br />鈴璃はぼんやりと光を眺めながら、周馬のセリフを完成させた。<br />それが正しいのかどうなのかは、判らない。<br />ただ、完結させたい衝動に駆られたのだ。<br />「・・・そう。」<br />周馬はゆっくりと首を縦にふる。<br />その反応も、正解なのか不正解なのか、よくわからなかった。<br />鈴璃は急に青年が、遠い存在に感じてくる。<br />何か別のことを話そうと思った。<br />あの、ピノキオみたいに、二人の特別の物語をつくろう。<br />もっと、自分が近くに居ることを実感できるような―。<br />鈴璃は意を決した。<br />「・・・。」<br />しばらく、頭の中を探すと、ふと話題にできるものが浮かんできた。<br />「うちにはねツリーが、何本もあるの。」<br />鈴璃は思いつくままに、そう言った。<br />ツリーから目を離さないまま、青年はこちらに興味だけを向ける。<br />「どうして？」<br />周馬が静かに言った。<br />「変わってるでしょ？」<br />鈴璃はどこか自慢げに言う。<br />周馬はそれに少し驚いて、鈴璃を見た。<br />「みんなでツリーを買いにいくのが、毎年の習慣なんだよね。」<br />鈴璃がにっこり笑ってみせる。<br />周馬もどこか落ち着いた微笑をたたえる。<br />「ふーん。いいね。」<br />「今年の分も、昨日買いにいったよ。今年はね、お母さんがほら、幹から枝から全部白いやつがあるじゃない？あれがいいっていって・・・」<br />周馬はじっと鈴璃の話をきいている。<br />鈴璃は、はっとした。<br />「あ、ごめん・・・」<br />ふと思い出して、口を噤んだ。<br />「？」<br />周馬は首をかしげた。<br />なんてことをしてしまったのだろう―と鈴璃は思う。<br />周馬たちは、孤児院出なので、家族はいないのだ。<br />クリスマスの家族の話など、彼にとって、ききたくもないだろう。<br />そんな大切なことをすっかり無視して、話すことに夢中になってしまっていた。<br />「どうして、謝る？」<br />鈴璃はとたんに意気消沈してしまった。<br />じっと俯く。<br />「そんなに俺、不幸そうに見える？」<br />周馬の声はどこか笑っている。<br />鈴璃はふるふると首をふる。それが、嘲笑なのか冷笑なのか知るのも、それ以上何か言うのも怖かった。<br />「俺にも、母さんはいるよ？」<br />鈴璃はそっと顔をあげる。<br />周馬はなんの気なしに笑って鈴璃をみていた。<br />「？」<br />鈴璃は不思議そうに首をかしげる。<br />「血はつながってないけどね。」<br />それをきいて、また心がどこか痛かった。<br />本当の両親がいないため、どこかに引き取られたということだ。<br />しかし、周馬のほうを見ると、嫌な顔はしていない。<br />それどころか、その記憶には満足しているようだった。<br />「ききたくない？」<br />綺麗な顔がにっこりと笑っている。<br />「・・・どんな人・・・？」<br />鈴璃は勇気をだしてたずねてみる。<br />周馬を育てた人がどんな人であるのか、気にならないわけが無い。<br />「名前は、皐月。」<br />青年はその名を、まるで花の名前のように言った。<br />「さつき・・・？」<br />「そう。明るくて、よく笑う。」<br />周馬は懐かしそうにそう言う。<br />見たことも無いその人に、嫉妬を覚えるほどに、どこかその表情は幸せそうだ。<br />「エビフライが大好きで、耳かきが上手。」<br />周馬が小さく笑って鈴璃を見る。<br />「素敵なお母さんね。」<br />周馬の小さな頃を知る人。<br />彼女は今どうしているのだろうか、鈴璃はぼんやり思った。<br />「ああ。でも、俺だけの母さんじゃない。飛鳥と鉄、荒樹、の母親でもある。」<br />鈴璃は静かに周馬を見た。<br />どこかで、ふっと頭の中が整理される。<br />如月周馬、春野荒樹、坂本飛鳥、坂本鉄は、同じ母のもとで、育てられたのだ。<br />だから、今の四人の関係がある。<br />「だから、入学式のとき、あんな風にいったのね・・・」<br />親戚でも、兄弟でもない。でも、いっしょに住むほど、仲はいい―<br />「行くあての無い俺たちは、『虹の家』で、家族になった。」<br />周馬は昔を懐かしむように、遠くを見た。<br />虹の家というのが、孤児院の名前なのだろう、と鈴璃は思う。<br />「一度くらい、俺たちもツリーをつくったことがあったかもな。」<br />「・・・そんな・・・」<br />鈴璃は静かにきいた。<br />「鉄と飛鳥が一番初めに、孤児院に引き取られた。その次に荒樹が入って、俺が一番最後で、あの時、俺は五つだったかな。」<br />「小さい頃の四人か・・・。」<br />小さな四人を想像してみる。周馬はどんな子だったのだろうか。<br />「飛鳥のやつは、昔から、腐れ秀才だった。」<br />周馬がクスリと笑って鈴璃を見る。<br />「本棚は、全部あいつの図鑑コレクションでうめつくされてたし、五つにして、相対性理論をほぼ完璧に理解してた、気味の悪いやつさ。」<br />鈴璃はおかしくて、笑い声をあげた。<br />「飛鳥は昔から頭がよかったのね。」<br />周馬は首を小さく縦にふる。<br />「鉄っちゃんは？」<br />坂本鉄は、坂本飛鳥の実の弟のはずである。<br />「鉄は甘えたがりのくっつき虫。いっつも誰かと居た。それに、よく泣いたな。俺たちの中じゃあ、一番食い意地がはってる。あと、あの顔だから、よく女に間違えられた。」<br />「へえ。」<br />鈴璃はさぞかし可愛らしい男の子だったのだろうと思った。<br />「あとは・・・」<br />周馬が小さく考える。<br />「荒樹は・・・どうでもいいか」<br />「ええ、だめだよ。ちゃんと最後まで」<br />「そう？」<br />周馬はいたずらっぽく笑ってみせる。<br />「うんうん。」<br />「あいつは、昔からお人よしだったな。誰かと喧嘩をすることもなかったし、一番、皐月さんを手伝った。」<br />「荒樹は昔からいい子だったんだね。」<br />「ああ。」<br />「荒樹だけは、次の新しい家族でも、まともなファミリーを築いてたみたいだ。」<br />「次・・・？」<br />「俺たちが孤児院でいっしょに育ったのは、それから小学校にあがるまでの三年間だ。それからは、皆が別々の新しい家族にひきとられた。」<br />「そうなんだ・・・」<br />鈴璃ははじめて知る、周馬の孤独を感じ取った。<br />「四人は、本当に固い絆で結ばれてるんだね・・・。」<br />鈴璃は小さな四人が、孤児院の広場で遊ぶところを想像した。<br />思わず暖かい笑みが湧いてくる。<br />考えるだけで、何故かとても幸せな気持ちになれた。<br />「なんだか、嬉しい。」<br />「？」<br />「周馬が自分のことを話してくれるなんて、思ってもみなかったの。」<br />「そう？」<br />冗談っぽく笑ってみせる。<br />「うん。わたし、今日のこと絶対忘れない。」<br /><br /> ]]>
</content:encoded>
<dc:subject>Ⅰ七色鬣ブレンド</dc:subject>
<dc:date>2009-10-31T17:22:09+09:00</dc:date>
<dc:creator>くらん</dc:creator>
<dc:publisher>FC2-BLOG</dc:publisher>
</item>
<item rdf:about="http://qran.blog8.fc2.com/blog-entry-198.html">
<link>http://qran.blog8.fc2.com/blog-entry-198.html</link>
<title>月下永人　１９４　欠席多数</title>
<description> 十二月も、すぐ終わろうとしていた。校庭の木々が葉をすっかり落としている。グランドでは、サッカー部がウォーミングアップをしていた。それを尻目に、周馬と未来妃と鈴璃は校門をでた。いつも冬頃になると、ヘビーローテーションされる学校指定のグレーのコートが、鈴璃は、少し恥ずかしかった。両側を歩く、二人は何気ないオシャレを楽しんでいるように見えた。未来妃は紺色のロングコートに、ブルーのチェックマフラーをしてい
 </description>
<content:encoded>
<![CDATA[ 十二月も、すぐ終わろうとしていた。<br />校庭の木々が葉をすっかり落としている。<br />グランドでは、サッカー部がウォーミングアップをしていた。<br />それを尻目に、周馬と未来妃と鈴璃は校門をでた。<br />いつも冬頃になると、ヘビーローテーションされる学校指定のグレーのコートが、鈴璃は、少し恥ずかしかった。<br />両側を歩く、二人は何気ないオシャレを楽しんでいるように見えた。<br />未来妃は紺色のロングコートに、ブルーのチェックマフラーをしている。<br />周馬は黒い腰までのダッフルに、赤いマフラーをしていた。<br />どんなに気温が低下しようとも、周馬の派手さは、沈静化する気配が無い。<br />「サッカー部、練習する気みたいね。」<br />一週間が過ぎて、鈴璃の頭はようやく、あの成田空港のことを忘れつつあった。<br />未来妃もようやく退院し、いつもの生活が戻ってきた。<br />ようやくそうかと思えば、もう二学期も終わりである。<br />鈴璃の隣で、赤いマフラーをした金髪の青年が大きなあくびをひとつする。<br />白い息が空に逃げていった。<br />「可哀想に・・・」<br />校庭でランニングしている部も少ない。<br />学校は異常に、人が少なかった。<br />「Ｄ組は学級閉鎖になったのにね。」<br />鈴璃はぽつりとそう言った。<br />「金城先輩も、休んでいたみたい。インフルエンザかな？」<br />未来妃は小さく考え込んだ。<br />先週ごろから、新型インフルエンザが流行しはじめ、部活も休みになっている。<br />未来妃が一色響司郎から仕入れた情報によると、金城武之を筆頭に、坂本鉄、波埼、山本理恵子、などなど、様々な人物がダウンしていた。<br />今年のウイルスは、かなりの強敵らしい。<br />鈴璃は自分もかからないかと、僅かに期待していたが、無理なことは判っていた。<br />「そうかもね。」<br />鈴璃はとりあえず、相槌をうった。<br />「そんなに、酷いのかしら・・・」<br />未来妃は何かを考えているようだった。<br />「鉄も寒気が治まらないって、朝、呻いてたな。」<br />周馬が思い出したように言う。<br />ウイルスが蔓延しているなんてことが、想像もできないくらいに空気は澄んでいる。<br />雪が降るのではないだろうか。<br />鈴璃はゆっくりと白い息を吐いた。手袋の中でも指先が冷たい。まだ、冷たさを感じることができることに、僅かに安堵した。<br />「波埼も、ずっとあの雪山から、体調崩してるもんな。すげーウイルスに違いない。」<br />周馬はポケットに手をつっこんだまま、空を見上げてヘラリと笑う。<br />「しばらく、部活は休みだろ。俺は感謝してる。」<br />青年は満足そうにそう言った。<br />「そんなことゆってたら、波埼先生から、レギュラーはずされちゃうかもよ。」<br />鈴璃が苦笑いをする。周馬は悪びれる様子もなく、爽快に笑っていた。<br />ふと、その横顔をみていると、鈴璃の心にある疑問が湧いてきた。<br />―あの夏から、どれくらいたっただろう。<br />鈴璃は、眩暈がするほどの幸福感に満たされたキスを思い出す。<br />甘美で、もう何もかも放り出してしまいたい気分だった。<br />しかし、二人は、特にあれからどうなるわけでもなかった。<br />「かもな」<br />周馬がニヤリと笑う。<br />もちろんその原因は、あの合宿での鈴璃の発言にあった。<br />―他に好きなひとがいる<br />突然にそう告げた鈴璃に、周馬は特に態度を変える様子はなかった。<br />あいかわらず、二人でのやりとりを楽しむばかりで、それ以上は無い。<br />鈴璃にとっては、ありがたいやら、もどかしいやらで複雑だった。<br />それなのに、今日は、はっきりとそのことが悔やまれたのだ。<br />それは、明日が、恋人たちのクリスマスだからだろうか。<br />特にキリスト教徒でもないのに、日本人は、商業的戦略に、見事に翻弄されている。<br />そんなことを、未来妃が昨年の今頃言っていた気がする。<br />それをもう一度未来妃が言ってくれればいいと思った。<br />「周馬は、いつもさぼってるでしょ。」<br />未来妃が周馬に厳しい一言を加えた。<br />「さぼっても、俺はうまいからいーの。」<br />堂々と如月周馬は言ってのける。<br />周馬はいつも、どこかつかみどころが無く、それでいて、どこか眩しすぎるくらいのストレートさを持っていた。<br />「あ！」<br />駅前まできて、未来妃が急に足をとめる。<br />「わたし留さんに用があるから。ここで」<br />未来妃はそう言って背を向けた。<br />「ええ？」<br />鈴璃はびっくりして未来妃を見る。<br />いったいこんな大切な日に、ガーデンに何をしにいくのだろうか。<br />波埼が未だに体調を崩している今、あの場所へ行っても波埼には会えないだろう。<br />「それに、わたし、お邪魔だし。」<br />どこか未来妃は気をつかったように見せかけて、自分に質問を許さない雰囲気を作っている。<br />「りゅう・・・？」<br />周馬が訊きかえした。<br />金髪の青年の頭には、何かの情報が浮かんだらしい。<br />「じゃあね」<br />未来妃は鈴璃と周馬に次を言う時間を与えるまえに、さっと背をむける。<br />その後姿が少しほっそりとして見えた。<br />「ねえ、未来妃ちょっと―・・・」<br />カバンを小脇にかかえて、自転車に乗ると、さっといってしまった。<br />「あーあ、いっちゃった。」<br />周馬と鈴璃はその背中を見送る。<br />鈴璃は諦めて、周馬をちらりと見る。<br />「リュウさんって―？」<br />周馬はそんなことなど知らぬ顔で、妙なことが気になっているようだった。<br />「ああ。留さんって、大松原のあたりにある、居酒屋のマスターなの。」<br />そう言うと、鈴璃の頭の中に、ぼやっとロン毛の男が浮かび上がる。<br />「ふーん。」<br />周馬は未来妃の既に小さくなった背中をじっと見る。<br />「最近すごく仲がよくて、通いつめてる。」<br />鈴璃は未来妃が波埼を好きなことを、堂々と暴露することは、しのびないと思った。<br />「相手が社会人とは、未来妃も、なかなかやるな。」<br />周馬はなぜか嬉しそうににっこりと笑う。<br />「うーん・・・。」<br />鈴璃は一瞬複雑な気持ちだった。確かに回瀬は優しいが、何か独特の怪しさをもっている男である。そんな男より、普通の学生どうしの恋のほうが健全であると思った。<br />「未来妃もいったことだし、かえろっか？」<br />わずかに期待をこめて、鈴璃は小さく言った。<br />「まさか。」<br />金髪がかかる目の端がわずかに緩む。<br />鈴璃はドキリとした。<br />「え？」<br />「如月周馬のために、イヴをあけてない、わけがない。」<br />周馬が色っぽく微笑む。<br />鈴璃の視界は青年のフェロモンに誘発されたように、くらりと揺れた。<br />「その自信は、どこからやってくるの？」<br />鈴璃は少し青年の奔放さに近づきたくて、軽い調子を真似てみる。<br />「なぜかっていうと」<br />周馬が顔をちかづけた。くいっと顎がもちあげられる。<br />「ん？」<br />鈴璃は驚いて、目を見開いた。<br />「こうすると、赤くなるから」<br />周馬がいたずらっぽく笑った。<br />あたりにいた人間が、その二人の行動に目を奪われる。<br />周馬はその視線などどこ吹く風で、不敵に笑って魅せた。<br />自由に生きるこの男は、人の目など、何も考えていないようだった。<br />いや、もしかしたら、こうすることで、乙女の心が奪えると周知のうえなのかもしれない。<br />「もう！」<br />鈴璃は頬を真っ赤に染めた。<br />最高の乙女心のトキメキと、優越感とが麻薬のように鈴璃の中を巡る。<br />周馬のひとつひとつの行動が、鈴璃を浮かせたり沈んだりさせた。<br />「新市街に、クリスマス・ツリーがあるってきいた。見に行こう。」<br />「ツリー？」<br />鈴璃はにっこり笑った。<br />大きな瞳が動く。<br />たまらなく、「ツリー」という単語が日常的で、平和で、たまらなかった。<br />「そうそう、俺だけ見て笑え。」<br />周馬が妖艶に微笑んだ。<br />この男は、自分を好きにならせるゲームをしているのかもしれない、と、ふと鈴璃はそう思う。<br />そう思えるほどに、完璧に青年は振舞ってみせる。<br />そうでなければ、こんな自分に構うだろか。<br />鈴璃は、ゲームだとしても、今はその余興にすっぽりと包まれていたかった。<br />周馬の笑顔を見ているときは、血も刀も、ミミックも黒夜叉も無しだ。<br />「ずるいんだから」<br />美しい顔に、どこか無邪気さが残っている。<br />青年は少女にその輝きを、余すとこなく、振りまいていた。<br />鈴璃は周馬が誰にでも、そうしていることくらい知っている。<br />きっと、明日は、別の誰かと、デートしているのかもしれない。<br />ただ、イヴをくれたことは、純粋に喜んでいいと思った。<br />「ウダウダ言ってないで、いくぞ」<br />周馬は鈴璃の手を引いて歩き出した。<br /> ]]>
</content:encoded>
<dc:subject>Ⅰ七色鬣ブレンド</dc:subject>
<dc:date>2009-10-31T16:20:49+09:00</dc:date>
<dc:creator>くらん</dc:creator>
<dc:publisher>FC2-BLOG</dc:publisher>
</item>
</rdf:RDF>